焙煎所のしごと
~生豆の入荷と品質管理~
コーヒー生豆は輸入品。アラビカ種発祥の地であるアフリカ北部から紅海周辺や、中米、南米、インドネシアやアジアなどの熱帯地域、寒暖差の大きい標高1,000-2,500mで生産され、私たちのもとへと海を渡る。
海上輸送は多くが空調を備えた20ftコンテナによるもので、その容量は18tほど。「正袋(せいたい)」と呼ばれる出荷時の取引形態は麻袋であることが多く、その1つあたりの容量は30-60kg、ときに70kg。国内に入ると輸入業者の手により5kg~の小分け作業が行われることが多く、このとき機械による異物除去が入るがコストパフォーマンスは容量が小さくなるほどに悪化していく。
シエロでは基本の入荷形態を正袋とし、品質面に対しては専用の比重選別機を導入している。この機材は生豆と焙煎豆それぞれに対応した運転モードを備えており、切り替えの都度内部清掃を行いながら入荷、及び出荷のクオリティを担保している。
スペシャルティコーヒーの定義のひとつに異物やディフェクトの混入率の低さがあるが、国内小分けのない正袋取引にはトップクラスの生産者であっても軽微なリスクは存在している。生産者が志した実力本来のクオリティを安定して引き出すため、また不慮の事故を防ぐため、この入庫作業は地味ながら意味するところは大きい。
麻袋を開くと、通常グレインプロと呼ばれるプラスチックバッグに収められた生豆が確認できる。
これは主として輸送・保管中の水分ロスを防ぐもので、生豆の含水率が落ちることはフレーバーに重大な変化をきたす。精製の完了時に11-16%、その後半年弱、ニュークロップとしてグレインプロを開封したときが9.5-11%ほど。これを大きく下回る数値に変化した場合、特に浅煎りでは藁のようなフレーバーが発現して致命傷に、また加熱時の熱伝導率や加水分解プロセスにも影響があるため別物となる。ただし深煎りではこのエイジングが味覚全体に穏やかなまとまりを生むこともあり、人工的な劣化品が一定のマーケットを持っている。
シエロでは入荷・機械選別を経てすぐ、浅煎りに使用し得る生豆は1kg単位のバキュームパックに小分けし定温の倉庫に格納、管理する。30kgなら30パック、46kgなら46パック。総じて入庫は重労働となるが、これにより乾燥、酸素との化合(酸化)による成分変化、紫外線の影響などあらゆるリスクが最小化される。このバキュームが解かれるのは焙煎機に投入される数分前で、それまで都度の開け閉めが行われることはない。
〜焙煎と出荷〜
焙煎機「Aquila」はコンベクションオーブンの考え方を採り入れたワンオフ機で、ガス火によるエネルギーは熱風となって生豆を焙煎していく。低温かつ迅速の加熱を得意とするが、その逆のアプローチも制御もしくは構造の可変性により可能なハイブリッド機となっている。
ロースター本人が設計に深く関わり、既存の実績あるコンポーネントを採用したことによる安定性と拡張性、そして国内製造により有事の際のリスク軽減を実現している。
フルマニュアル制御で最小200g、通常1~3kgまでの焙煎を安定させ、整備を含む運用に第三者の力を必要としない。そのレスポンスは5点のセンサーからリアルタイムに可視化され、必要に応じデータとして保存される。小型ながら目指すコーヒーの品質にコミットした超高性能と、機材としての安定性を両立した。
「Aquila」の開発に成功したことはシエロにとって大きな可能性を開き、度重なる理想のアップデートへとつながった。
現在本機は2度の改良工事を受け、日々ほぼ休みなく稼働しカスタマーへとコーヒーを送り出している。浅煎りの仕上げは0.5秒のミスが許されないピーキーなもので、焙煎後8-12時間で行われるカッピング(品質チェック)は子供たちを世に送り出す最終工程として「卒業式」の名で呼ばれている。
b2b取引(飲食店、オフィス、シェアスペースなどの仕入れ)をご希望の方は上記「 CONTACT / E-mail ▶︎」よりご相談ください。